宮崎監督へ多大なる尊敬
日本の皆さんにとっては今更、なのは承知だが、やはり書かずにはいられない。
この映画を実際に自分で観る前に、日本での観客の感想というのをスタジオ・ジブリやファンによるサイトの中でたくさん目にしていた。と言っても、断じてストーリーをよく知るためではないし、そんなことをしたら映画は台無しになってしまう。私が気になったのは、今までさほど極端な賛否両論を起こさなかった宮崎監督の映画が、なぜこの「もののけ姫」ではそれが極めて強いのかということだった。あいにく、こうして数々の「不満」を目にしても、私個人の映画に対しての期待は抑えられることはなかった。
映画を見終わって、今あらたにネット上にある数々の感想・評価を眺めている。私が考えさせられるのは、この映画を「つまらない」などと言って全く理解できなかった人達である。想像はつく。「もののけ姫」は「魔女の宅急便」や「となりのトトロ」とは明らかに趣旨が違うし、「風の谷のナウシカ」のように最後に主役のキャラクターが蘇って「わーいやったー」、というのがあるわけでもない。そういった、「観る側の嗜好に合わない」というのはよくあることだし、それだけで映画そのものの評価にはならない。
しかし、そういった「嗜好の違い」だけで映画の評価をしてしまう人達は、個人的には許し難い。だからちょっと不平を言わせてもらう。例えば「楽しくなかった」という人達は、いわば可愛くて楽しいファンタジーな内容を期待していた人達に違いない。しかし、何もかわいくて楽しいだけが映画ではない。そこで「楽しくなかったから悪い映画」と解決してしまうココロが、私には考えられない。たとえ小さな子供達にだって、彼らが柔軟な感性の持ち主ならば、この映画が何かしら心に訴えかけるものがあったと思うのだ。フランス人でも、この映画を「いつもの軽さと叙情的さがない」などと言う人もいた。筋違いとはこのことであろう。
そして「話がつかめなかった」という人達。彼らには、この映画が自然と人間との関係を扱っているという事が、森の画像を見ていてもわからなかったのだろうか? 何が具体的にわからなかったのか、こちらが疑問に思ってしまう。
「批評への批評」はこのくらいにしておいて、映画そのものへの感想に入ろう。
個人的には、宮崎監督の作品で一番のお気に入り、という結果には至らなかったが、今までの作品の中で一番テーマがストレートに描かれている作品だと思う。テーマ、つまり「自然と人類の関係」、だ。ストーリー自体が主役ではない。ストーリーの背後にあるテーマが主役なのだ。
だからといって「もののけ姫」のストーリーが魅力的ではなかったというわけではない。自然の命を奪うという光景は、決して心地の良いものではないというだけだ。
しかし、私の中でナンバー・ワンであるナウシカでも、そのような光景がふんだんに出てくる。違いは何だろう? それは、エンディングだ。
ラストで、シシ神が日の出と共に消えてしまう、というのは、森を司っていた者が消えた、すなわち、またひとつ自然にとって大事なものが人間によって破壊されてしまった、ということだ。そんな悲しい結末よりも、「人間の敵」とされていた王蟲の暴走を命掛けで止めて、最後には王蟲からあらたな命を吹き込んでもらう、という感動的なエンディングの方が、物語と言えど希望の光があるのだ。
そして、森に守護神が本当にいたかどうかは置いておいて、人間が文明の発達のために森の平和を犠牲にする、という事実は、見ていて胸が苦しくなるではないか。何も事実を否定したいのではない。ただ、現実が悲しいというだけだ。
しかしその悲しい事実への直面の一方で、古き良き日本の姿というのを堪能できたことがとてもうれしかった。すばらしい画像だけではなく、今では失われた古い日本語の言い回しが聞けたことが、究極の醍醐味だった。昔の日本はなんてエキゾチックだったんだろうと、少しノスタルジックな気分になってしまった。
子供のための映画かと言えば、「もののけ姫」は、子供に夢を見させるようなメルヘンティックな映画ではない。重たい問題を投げかける映画だ。でも、その問題と将来本格的に向かい合わなければならない今の子供達にとって、いい教育映画にすらなりえる映画だと思う。だって、そう遠くない将来、おいしいご飯が食べられなくなってから自然保護の怠りを嘆くんじゃあ、メルヘンティックも何もあったもんじゃありませんからね。
ぐちぐち長く書きましたが、好き嫌いよりも宮崎監督に対する尊敬心がじわじわと浮かんでくる映画、といったところでしょうか。
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